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老齢年金制度 キホンの「キ」

  • 執筆者の写真: 山田功
    山田功
  • 5月21日
  • 読了時間: 7分

令和7年度年金改革関連法案が閣議決定され、重要広範議案として通常国会へ提出されました。現在の年金制度は、昭和63年4月1日から施行された基礎年金制度が基本となっています。基礎年金制度施行の当時(昭和63年)とは、社会・経済状況や就労構造の変化とともに、個人のライフスタイルも変化してきています。 今後、どのような年金制度が適しているのかを判断するにも、まず、現在の制度を知ること。また、私たちが受給している、あるいは今後受給する年金はどうなるのかを知ることも必要です。そこで、今回の記事では(老齢)年金制度について、図を使用しできるだけシンプルに、直観的に理解できるように解説します。


基礎年金(国民年金)

年金制度は一定のライフプランを前提に設定されています。どのようなプランでしょう?まず、下の図をご覧ください。これは日本国に居住する人の20歳から60歳までの図です。何だがわかりませんね。図の中に「基礎年金」という用語が入っています。



これは、日本国内に居住する20歳から60歳までの間は、誰でも国民年金の被保険者(強制被保険者)で年金制度の一員であることを意味します。 自営業(個人事業主)などのフリーランス、学生等の方は、この黄色の基礎年金(国民年金)の部分(いわゆる「1階部分」)から、保険料納付月数に応じ老齢基礎年金が支給されます。なお、これから登場する「基礎年金」と「国民年金」という用語は同じ制度・意味で使用します。


厚生年金保険

下の図をご覧ください。



この緑の図も誰かの23歳から65歳までの厚生年金の被保険者期間を表しています。では、この緑の図と黄色の図を合体してみましょう。

サラリーマン等は2階建て(基礎年金と厚生年金保険)



徐々に具体的になってきました。この図にストーリーを与えていきます。 仮に太郎さんとしましょう。 「太郎さんは4年制大学卒業後、新卒(23歳)で民間会社に就職し、65歳で定年退職しました。」という具合です。基礎年金(国民年金)の場合は、日本国内に居住する20歳以上60歳未満の人は誰でも加入します(強制被保険者になります)が、厚生年金保険は民間企業、国家公務員等のように企業等にお勤めの方が加入(被保険者)となります。

では、下の図のストーリーはどうでしょう?

18歳(高卒(新卒)で就職したら?


基礎年金の期間(黄色)は「20歳以上60歳未満は強制加入」なので上の図との変化はありません。緑の図から「高校卒業後、新卒(18歳)で民間会社等に就職し65歳で定年を迎えるまで働いた」というストーリーを与えることができます。 仮に中学卒業後すぐに就職するのなら緑の図の「18歳」は「16歳」になります。70歳まで会社で勤務するのなら、「65歳」は「70歳」になります。

【TOPICS】外国人も年金制度の一員です

この記事の最初の方で「日本に居住する20歳から60歳までの間は誰でも国民年金の被保険者(強制被保険者)」と説明しました。基礎年金(国民年金)(黄色)に国籍要件はありません。例外はありますが、原則として滞在期間にかかわらず、20歳以上60歳未満の外国籍の方でも「日本国内に住所を有するに至ったとき」(国民年金法第8条第2項)に、国民年金の被保険者(基礎年金)(黄色)となります。厚生年金保険(緑)も国籍要件はありません。なお、厚生年金保険は70歳に達した場合は、会社に勤務していても被保険者資格を喪失します。

さて、大学卒の太郎さんに話を戻しましょう。

学生納付特例制度



上記の図を修正して、更に情報を加えてみましょう。下の図をご覧ください。


太郎さんは、20歳から23歳の卒業時までは「学生納付特例制度」を申請し、国民年金保険料を納付していません(黄土色)。 この黄土色の期間は「合算対象期間」といい、受給資格期間(基礎年金を受給するための保険料を納めるなど原則10年以上)には合算されますが、将来の年金額には反映されません(そのため、通称「カラ期間」と言われています。)。

【TOPICS】学生納付特例の歴史

「学生納付特例制度」は平成12年に新設された制度です。それまで(平成3年から平成11年の間)は、20歳以上の人は学生であっても強制加入でした。万が一の際に障害年金を受給できるよう、強制的に加入させる制度でしたが、経済的に自立していない学生に社会人と同様に強制加入させるのは適切か?!などの事情がありました。そのため、学生であっても20歳以上であれば国民年金の被保険者となりますが、本人(または大学等の指定代行機関)が申請することで、国民年金の保険料が免除される「学生納付特例制度」が新設されました。

学生納付特例の実際~太郎さんの場合~

話を本題に戻しましょう。下の図をご覧ください。


ストーリーを現実に沿うように変更しました。 太郎さんは20歳から卒業までは「保険料未納期間」です。平成3年3月までは「学生は20歳になっても強制加入ではなく任意加入」だったからです。太郎さんが令和7年3月で65歳というストーリ―の設定上、昭和55年3月で20歳ということになります。その当時、20歳以上の学生は「任意加入」でした。任意なので国民年金に加入していない方が一般的でした。そこで、太郎さんは水色の説明どおり、(国民年金に加入していなかった)保険料未納期間とします。下の図をご覧ください。

「総報酬制の導入」、「平均標準報酬月額」、「平均標準報酬額」、「約0.7%」、「約0.5%」などの情報を加えています。

【TOPICS】ボーナスと年金

厚生年金保険の総報酬制は平成15年4月から導入されました。平成15年3月までは、報酬月額(概していうと、残業手当等も含めた給料総額(税引前))をもとにした表に当てはめて、厚生年金保険料が徴収されていました。平成15年4月以降は、賞与(ボーナス)からも保険料を徴収することになりました。(参考)「健康保険・厚生年金保険の保険料額表(令和7年4月納付分~)」その結果、平成15年4月からは年金を計算する際、総報酬制導入前の「平均標準報酬月額」に約0.7%を、(ボーナス分も含めた)「平均標準報酬額」に約0.5%をかける制度となったのです。

年金額の計算~太郎さんの年金額~

太郎さんの生年月日:昭和35年3月25日生

A会社の勤務期間:昭和58年4月1日付で入社し、令和7年3月25日付、65歳で定年退職厚生


年金保険の被保険者期間:昭和58年4月~令和7年2月

1.昭和58年4月~平成15年3月(総報酬制導入前の期間)

(厚生年金)被保険者期間 20年(240ヵ月)

2.平成15年4月~令和7年2月(総報酬制導入後の期間)

(厚生年金)被保険者期間 21年11月(263ヵ月)


期間計算のルール

国民年金、厚生年金保険の被保険者期間の数え方(被保険者期間の計算)は、「加入した月から喪失した月の前月まで」(国民年金法11条1項、厚生年金保険法19条1項)と覚えておきましょう。 太郎さんの厚生年金被保険者期間を例に当てはめれば、加入した月は(昭和58年)4月です。喪失した月は会社の定年退職の月(令和7年)の3月です。喪失した月の前月は、(令和7年)の2月となります。したがって、太郎さんの厚生年金保険の被保険者期間は、昭和58年4月から令和7年2月までの41年11か月(503ヵ月)となります。なお、この被保険者期間の数え方は(国民)健康保険も同様です。 さて、太郎さんの年金額の計算式は?


国民年金(基礎年金部分)


保険料納付済期間は、36年11カ月(443ヵ月)昭和58年4月(A社入社月)~令和2年2月(60歳到達月の前月)831,700円(令和7年度額)✕443月/480月 ≒ 767,590円


厚生年金(報酬比例部分:厚生年金額①+厚生年金額②)

①(平均標準報酬月額✕約0.7%✕240ヵ月)+②(平均標準報酬額✕約0.5%✕263ヵ月)となります。

※実際には厚生年金の報酬月額の算出の際に「再評価率」(過去の貨幣価値を現在価値に評価するための一定の率)という係数をかけます。

以上が、老齢年金の構造です。


まずはシンプルに骨組みを理解しましょう

このほか、経過的加算、被扶養配偶者や18歳未満の未婚の子等がいれば加算額、生年月日により「特別支給の老齢厚生年金」などの特例等があります。まずは、現行の老齢年金制度の基本的な骨格を理解していただくことを第一に、イメージを掴んでシンプルに説明させていただきました。遺族・障害年金もこのWEB記事で説明したことが基本となっています。


今後、年金シリーズとして当事務所HPのWEB上やNoteで連載していく予定です。


今回の解説を理解することで、ねんきん定期便の見方や細部の解説がよりわかりやすくなります。当事務所では、年金・(国民)健康保険制度、その他労務問題等のセミナー開催や講師派遣も承っております。

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